***
ツバメは警報機を鳴らし、防火シャッターを開けるなど撹乱と陽動を画策した。しかし電気で動くもののほとんどは動かなかった。もちろんそれがテローネの仕業だとは気付かなかったが、脱出しようとするものの誰かが仕掛けたものだろうとは検討がついた。
ツバメにとって脱出者に特に用はない。テストに協力しているとはいえ、誰かが見張っているわけでもない。しかも、事が起きてしまえば自分たちの命が危なくなるかもしれない。実際長い廊下をぬけるにあたり、傭兵らしい人間を目撃していた。
ツバメは目立たぬように燕の姿になり、夜の闇をぬけて駐車場へと飛んだ。そこに停めてあるジープに乗り込むと、エンジンをかけていつでも施設から発車できるように準備した。
後は五平がうまくやってこちらと合流するのを待つのみだ。
***
希は書置きを宙に浮かべると、施設に向かって走り出した。足元がよくないが、布を使って空中を歩ける希には関係のないことだった。しかし、施設からはかなり離れた場所に飛んできてしまっていたため、戻るにはそれなりの時間がかかる。
***
「バネット! 賞金稼ぎはどうなっている?!」
ディラックはいらだたしげに所長室をうろうろと歩き回っていた。
「お父様、もう終わりにしましょう」
バネットは冷たく父を突き放した。
「なんだと?」
ディラックが返す言葉を選ぶ間に、所長室の扉が開け放たれた。
「所長、ここは危険です。外に車を待機させてありますのでご案内します」
現れた男は、五平だった。
「梨野五平、あなたは‥‥」
バネットは五平の心中をはかりかねている。この期に及んで何をたくらんでいるのか? まさか、賞金‥‥
「お招きにあずかりました賞金稼ぎです、あなたの身柄を頂きに参りました。あれ?」
拳銃を向けながら素っ頓狂な声を上げたのは、例の医師、ウラジーミルだ。彼もまた所長を『換金』するため、この部屋に乗り込んできたところだった。
「そこの影の薄い人、あなたも賞金稼ぎかい? おかしいな、Sランクの情報は一握りの賞金稼ぎしか知らないはずなんだけど。それとも本意で所長を逃がそうと?」
ウラジーミルの言葉に五平は笑い声で返した。
「私は外から来た人間でして、その筋に詳しい知り合いもいるんですよ。仕事柄ね。所長の身柄云々に関してはここを無事出られてから話し合おうじゃないですか」
五平はスマートに物事を運ぼうとしたが、ウラジーミルのほうはそうでもないらしい。
「僕はややこしいやり方は苦手でね」
拳銃が五平に向けられたその瞬間、轟音と共に真っ黒な何かが部屋を駆け抜けた。
「戦争を探しに行かなくちゃいけませんの。だから邪魔をするおじさんは死んでくださいの」
血で作ったネズミを食べ、眼のない猫から眼のない黒豹になったそれに乗ったテローネが静かに言った。
床には、首元を噛み切られて絶命しているディラックが無造作に転がっていた。
五平は唖然とそれを見ていた。
「お嬢ちゃん、殺しちゃ賞金はもらえないんだよ」
「それは知りませんでしたの」
「これだとお兄さん、お友達に怒られちゃうんだけど」
「大人なら自分で何とかしなさいの」
興味なさそうにそう言うと、テローネは再び髪をなびかせながら外へと黒豹を走らせた。点々と血の跡を残して。
「ここにいる理由はなくなったね」
「そのようですね」
互いに向けた銃を下ろした五平とウラジーミルは、来た道を戻るように別々に部屋を出て行った。
ドアと分身越しに一部始終を把握した鏡は、目的を施設の脱出一本に絞った。
残されたのは死体と、少女が一人。
***
「お客さんは?」
訝しげに訊ねるツバメに、五平は肩をすくめて答えた。
「いい金になりそうだったんだけどな」
「仕方ないことです」
五平を助手席に乗せて、ツバメはジープを出した。
ツバメは警報機を鳴らし、防火シャッターを開けるなど撹乱と陽動を画策した。しかし電気で動くもののほとんどは動かなかった。もちろんそれがテローネの仕業だとは気付かなかったが、脱出しようとするものの誰かが仕掛けたものだろうとは検討がついた。
ツバメにとって脱出者に特に用はない。テストに協力しているとはいえ、誰かが見張っているわけでもない。しかも、事が起きてしまえば自分たちの命が危なくなるかもしれない。実際長い廊下をぬけるにあたり、傭兵らしい人間を目撃していた。
ツバメは目立たぬように燕の姿になり、夜の闇をぬけて駐車場へと飛んだ。そこに停めてあるジープに乗り込むと、エンジンをかけていつでも施設から発車できるように準備した。
後は五平がうまくやってこちらと合流するのを待つのみだ。
***
希は書置きを宙に浮かべると、施設に向かって走り出した。足元がよくないが、布を使って空中を歩ける希には関係のないことだった。しかし、施設からはかなり離れた場所に飛んできてしまっていたため、戻るにはそれなりの時間がかかる。
***
「バネット! 賞金稼ぎはどうなっている?!」
ディラックはいらだたしげに所長室をうろうろと歩き回っていた。
「お父様、もう終わりにしましょう」
バネットは冷たく父を突き放した。
「なんだと?」
ディラックが返す言葉を選ぶ間に、所長室の扉が開け放たれた。
「所長、ここは危険です。外に車を待機させてありますのでご案内します」
現れた男は、五平だった。
「梨野五平、あなたは‥‥」
バネットは五平の心中をはかりかねている。この期に及んで何をたくらんでいるのか? まさか、賞金‥‥
「お招きにあずかりました賞金稼ぎです、あなたの身柄を頂きに参りました。あれ?」
拳銃を向けながら素っ頓狂な声を上げたのは、例の医師、ウラジーミルだ。彼もまた所長を『換金』するため、この部屋に乗り込んできたところだった。
「そこの影の薄い人、あなたも賞金稼ぎかい? おかしいな、Sランクの情報は一握りの賞金稼ぎしか知らないはずなんだけど。それとも本意で所長を逃がそうと?」
ウラジーミルの言葉に五平は笑い声で返した。
「私は外から来た人間でして、その筋に詳しい知り合いもいるんですよ。仕事柄ね。所長の身柄云々に関してはここを無事出られてから話し合おうじゃないですか」
五平はスマートに物事を運ぼうとしたが、ウラジーミルのほうはそうでもないらしい。
「僕はややこしいやり方は苦手でね」
拳銃が五平に向けられたその瞬間、轟音と共に真っ黒な何かが部屋を駆け抜けた。
「戦争を探しに行かなくちゃいけませんの。だから邪魔をするおじさんは死んでくださいの」
血で作ったネズミを食べ、眼のない猫から眼のない黒豹になったそれに乗ったテローネが静かに言った。
床には、首元を噛み切られて絶命しているディラックが無造作に転がっていた。
五平は唖然とそれを見ていた。
「お嬢ちゃん、殺しちゃ賞金はもらえないんだよ」
「それは知りませんでしたの」
「これだとお兄さん、お友達に怒られちゃうんだけど」
「大人なら自分で何とかしなさいの」
興味なさそうにそう言うと、テローネは再び髪をなびかせながら外へと黒豹を走らせた。点々と血の跡を残して。
「ここにいる理由はなくなったね」
「そのようですね」
互いに向けた銃を下ろした五平とウラジーミルは、来た道を戻るように別々に部屋を出て行った。
ドアと分身越しに一部始終を把握した鏡は、目的を施設の脱出一本に絞った。
残されたのは死体と、少女が一人。
***
「お客さんは?」
訝しげに訊ねるツバメに、五平は肩をすくめて答えた。
「いい金になりそうだったんだけどな」
「仕方ないことです」
五平を助手席に乗せて、ツバメはジープを出した。
PR
この記事にコメントする
- ABOUT
個人運営PBWプロジェクト/あなたと作る物語