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遠吠えは届かない
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 白い壁、白いカーテン、白いベッド、白い天井……
 何もかもが白で埋め尽くされた部屋。
「いつもの朝だ……」
 レナは頭をガシガシとかきながら体を起こした。長い髪がはらはらと彼女の顔を包むように落ちる。
 彼女は気がついたときにはもうこの施設にいた。それ以前の記憶は曖昧だ。なぜ記憶がないのか、記憶を消されたのか、それとも別の何か、たとえば事故で失ったのか……彼女にはわからなかった。わかるのは、この施設が自分のような『能力者』を収容しているということだけだ。
 レナはブラウンの長い髪を手早くまとめると、部屋の隅にすえつけられた洗面台で顔を洗った。
 ここは白い刑務所だとレナは思っていた。実際刑務所に入ったことはないが、いつか映画で見た刑務所はこんな感じだった。
「出よう」
 レナは鏡に映る自分に向かってつぶやいた。
 この施設で目覚めて何ヶ月になるのか? 戦争が終わった世界はどうなったのか? いや、戦争は終わったと教えられたが本当に終わったのか? そもそも戦争があったのか? 彼女には何もわからなかった。
 今はただ、自由を手にしたい。
「ねぇ」
 床の排水口らしき穴にレナが話しかけた。
「レナ?」
 ややあって、穴から女性の声が返ってきた。若い女性の声だ。この穴は別の部屋につながっているらしかった。
「私、ここから出る」
「どうやって?」
「わかんないけど、色々やってみる」
「出てどうするの?」
「自由になるの」
「……がんばれ」
 ため息交じりの声が返ってきて、それきりだった。
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