明染 希(アケソメ・ノゾミ)は自室でハンカチに飾り縫いをしていた。食堂で会ったアリシアという金髪をおさげにした少女に頼まれたものだ。自分と同じ年頃の少女に、希は親近感を抱いた。
そもそも針の所持は他の収容者には認められていないのだが、希の能力が戦闘向きでないことや彼女の性格の穏やかさから少しの裁縫道具を持つことを許可されているのだった。
すっかり手慣れた様子でハンカチに飾り縫いを施していくが、彼女は本来手先でするような細かいことが苦手である。不器用なことは自分でも自覚していたが、よくわからないままいつからか閉じ込められていたこの施設では、何かをしていないと不安になった。
何かに集中している間は不安さを忘れられる。だから希は、あえて自分が苦手とする裁縫をやろうと思い立った。
何も考えなくてもできるような得意なことでは、不安を思い出してしまうから。
そういえば彼女がコルクボードを使って布を集め始めてから、ときどき何枚もまとめて布切れをボードに貼り付けてくれる人がいる。名前も書いていないし、何を作って欲しいということもわからないが、その布をきれいな正方形のハンカチにしてコルクボードに貼っておくと、その誰かが持って行ってくれる。希にとってそれはちょっとした楽しみになっていた。次はブックカバーにでも挑戦してみようかな。
「また匿名さんからの布だ」
希は外の世界から入ってくる色々な柄の布を丁寧にベッドに並べていった。すると、布の束から小さな紙切れが零れ落ちた。紙切れを拾い上げ、広げてみるとハンカチの例が書いてあった。こんなことは初めてだ。名前はないが、紙切れの端にツバメのスタンプが押してある。
「ツバメさん?」
さらに、厚紙に挟まれて刺繍針と糸が忍ばせてあった。
「刺繍かぁ……」
自分が持っている裁縫針より太くて頑丈な刺繍針と、紺色の刺繍糸。
「このツバメを刺繍できたら、きっとかわいいだろうな」
希は嬉しそうに裁縫箱に針と糸をしまった。
なぜそんなものが自分の元に送られてきたのか、希は疑うこともしなかった。特殊な能力があること以外、か弱く穏やかな少女である希にとって針と糸がさして物騒なものだとは思えなかった。
そもそも針の所持は他の収容者には認められていないのだが、希の能力が戦闘向きでないことや彼女の性格の穏やかさから少しの裁縫道具を持つことを許可されているのだった。
すっかり手慣れた様子でハンカチに飾り縫いを施していくが、彼女は本来手先でするような細かいことが苦手である。不器用なことは自分でも自覚していたが、よくわからないままいつからか閉じ込められていたこの施設では、何かをしていないと不安になった。
何かに集中している間は不安さを忘れられる。だから希は、あえて自分が苦手とする裁縫をやろうと思い立った。
何も考えなくてもできるような得意なことでは、不安を思い出してしまうから。
そういえば彼女がコルクボードを使って布を集め始めてから、ときどき何枚もまとめて布切れをボードに貼り付けてくれる人がいる。名前も書いていないし、何を作って欲しいということもわからないが、その布をきれいな正方形のハンカチにしてコルクボードに貼っておくと、その誰かが持って行ってくれる。希にとってそれはちょっとした楽しみになっていた。次はブックカバーにでも挑戦してみようかな。
「また匿名さんからの布だ」
希は外の世界から入ってくる色々な柄の布を丁寧にベッドに並べていった。すると、布の束から小さな紙切れが零れ落ちた。紙切れを拾い上げ、広げてみるとハンカチの例が書いてあった。こんなことは初めてだ。名前はないが、紙切れの端にツバメのスタンプが押してある。
「ツバメさん?」
さらに、厚紙に挟まれて刺繍針と糸が忍ばせてあった。
「刺繍かぁ……」
自分が持っている裁縫針より太くて頑丈な刺繍針と、紺色の刺繍糸。
「このツバメを刺繍できたら、きっとかわいいだろうな」
希は嬉しそうに裁縫箱に針と糸をしまった。
なぜそんなものが自分の元に送られてきたのか、希は疑うこともしなかった。特殊な能力があること以外、か弱く穏やかな少女である希にとって針と糸がさして物騒なものだとは思えなかった。
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