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遠吠えは届かない
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「ついに脱出が始まったみたいだな。さて、俺はどうするかな~」
小黒は一人ぶらぶらと廊下を歩いていた。外の世界がここよりもよくて、自由で、幸せになれるなんて保障はどこにもない。そんな風に思っていた小黒は、いざ作戦決行の夜になっても彼らしく飄々としていた。女性を守り、女性のそばにいて女性を幸せにすること。それこそが彼の幸せでもある。
ぶらりと通り過ぎようとした医務室、その中からアリシアの声がした。小黒はもちろんそれを聞き逃さなかった。
「アリシアじゃねえか、まだ引きずってんのか?」
サッと医務室に入り込む小黒。それと入れ違えに医務室を出るウラジーミル・リヤトニコフ医師。
「僕はこれから用事があるんでね、彼女をよろしく」
「おう、ってあんた何なんだよ」
小黒が不思議そうに後姿を見送ったが、ウラジーミルは片手を挙げただけだった。
「小黒、何でここに? 私といると作戦も全部ばれちゃうし、どこにいるのかも全部わかっちゃうのに」
泣き出しそうな顔で言うアリシアの肩に、小黒は優しく手をかけた。
「関係ねぇ。俺はアリシアを守る。それができりゃいいんだ。ここに残りたきゃ俺も残って、あんたを守るぜ」
かなりかっこつけて言った小黒だが、直後に思い切り開いたドアに頭をぶつけて悶絶した。
「アリシア! 探したんだよ!」
レナだ。
「ほら、みんな脱出するんだよ、一緒に行こう!」
「俺は無視かよ!」
「あら小黒、いたの」
「いたのじゃなくて! くそっ」
小黒は起き上がると、レナに向かって自分の思っていることをぶつけた。
「おまえは一緒に脱出しようって言うけどよ、ここを脱出したとしても能力者である以上追われる事に変わりはねえ。残れば自由はねえが命の危険もない。お前は友情だけで親友に命を賭けてくれって言えんのか!?」
「それは!」
しばしにらみ合う二人。
「私の足で、アリシアを解き放つ。だから私に命をちょうだい。私の命もアリシアにあげるよ」
レナが覚悟の一言を放った。
「そうくると思ったぜ。でも決めるのはアリシアだろ?」
小黒とレナ、二人の視線がアリシアに向けられる。
「‥‥やっぱりレナは馬鹿ね。私がいなきゃ、心配すぎてここでも生きていけそうにないわ」
レナと手を取り合うアリシア。それを見て小黒は小さく肩をすくめた。
「ここにいる女の子ってのはみんな危ないことをしたがる。おかげで命がいくつあっても足りそうにないぜ」
そういうや否や、小黒はアリシアを抱き上げてレナを見つめた。
「な、なによ、アリシアにちょっかい出しつつ私をそんな風に見つめても‥‥」
「バーカ、『守護天使の目』だ。おまえの能力、ちょっくら借りるぜ」
小黒の左目に映る限り、その能力者のナイトメアを自分のものにすることができる『守護天使の目』。小黒はアリシアを抱えてレナの後に続いて走った。信じられないほど足が軽かった。
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