朝食の時間に、不穏な動きを見せる能力者がいた。それに気付いてはいたが特に何もすることは無かった。
呉 杏柚(くれ・あんゆ)はこの施設の職員である。もっとも収監されている能力者たちは皮肉を込めて職員たちをまとめて『看守』と呼ぶが。
(「やれやれ……まぁ他の職員に見つからなければいいが」)
脱走の噂話を耳にしたと思えば目の前でその企画者と仲間が何か企てているようだ。しかしこの施設から出ることはまずできないだろうし、できるものならぜひ見てみたいという気持ちもあった。
それにささいなナイトメアのネズミを捕まえてああだこうだと上から言われるのも面倒だ。
助けを求められれば――まあ、そんなことは無いだろうが、少しは手助けしてやるのも面白いかもしれない。
そんなわけで、杏柚はレナやテローネたちを記憶の隅にとどめておくことはするが自分から首を突っ込むことはしないことにした。とりあえず、今のうちは。
「どうしたの?」
「あの人」
アリシアが杏柚のほうにチラリと目をやった。
「あのロングスカートの女の人、要注意」
アリシアはそっと囁いた。
ナイトメア、『識別眼』。ナイトメアを持つかどうかを見分ける能力。
「何でこんなしょぼい能力で収監されてるのかしら」
苦笑いしながらアリシアが言った。
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