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遠吠えは届かない
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「いきなり協力とかテストとか言われてもな、こっちの都合ってのもあるんだ」
ツバメがバネットに噛み付くように言った。怪しい施設で運び屋というのも十分危険な仕事だがそれに見合っただけの対価はもらっている。ツバメは仕事に関してはきっちりしていた。
「私も、もっと情報がないとなんとも言えませんね」
そこにいるのかいないのか、普通の人間には影が薄すぎてわからない梨野五平。彼が発言してバネットもああそこにいたのかと振り返るほどだ。
「仕事を依頼するのならちゃんと段階を踏まなければいけないわね。じゃあ私の部屋で話しましょう」
バネットが休憩室を出ると、少々面倒そうにツバメと五平も後についていった。

「今、この施設から脱走しようとしている能力者が数名いるの。彼らがもしこの施設から無事に脱出できたなら、それは彼らがとても優秀だということ。そして私たちは能力者の中でもそういう優秀な人間を確保したいの。でもここから脱出するのは相当難しいわ。だから私は色々なところにヒントを与えることにしている。それは武器だったり、あえて作った構造の欠陥だったり、外部の協力者だったりするわ」
「つまりその協力者になれと?」
説明をするバネットに五平が問いかける。
「うーん、協力者も必要だけど、それを邪魔する人がいてもいいかなと思ってる」
「ハァ?」
興味なさそうに外野から話を聞いていたツバメが声を出す。
「協力するか邪魔するかは、あなたたちに決めてもらうの。私たちには秘密でね。別に深い意味はないんだけど、そのほうがテストを面白くするんじゃないかと思ってるの」
「ゲームのために命をかけるのは馬鹿げているとは思いませんか?」
「そうね‥‥でもゲームに命をかけることを楽しんでいる人たちもいるわ」
「たとえばそれはあなたですか?」
「針みたいに突っついてくるのね」
バネットはそうたとえたが、五平にそんなつもりはない。ただ確認しておきたいだけだ。
「一言にゲームといってもいろいろあるでしょう、サッカーやチェスもゲームだけど、それに人生を捧げる人たちがいるわ。私たちも対価はちゃんと払う。テストが終わるまで最長で二ヶ月、最後まで働いてくれれば十万ドルを支払います。そちらから何か要求するものは?」
「情報、権限、ついでにここに住む許可がほしいですね。満足できるものをいただけなければお断りします」
きっちり言い放つ五平に、バネットは深くうなずいた。
「やっぱりこれくらいしっかりした人でなければこの仕事は任せられないわね。ツバメさんはどうかしら?」
バネットがツバメのほうに目をやると、ツバメは腕時計に目を落とし、
「あーもうこんな時間かよ、仕事が詰まってるんだ、行くわ」
と、ふらりと出て行ってしまった。
「ツバメはああいう性格なので‥‥つまり、自分の仕事はきっちりするということです」
五平が少しフォローを入れておく。
「じゃあ、五平さんからの要求の詳細を聞いてもいいかしら?」
バネットは抽斗からレポート用紙とペンを取り出すと、改めて五平のほうに向き直った。
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