「それで、やっぱり闇が怖いの?」
「はい、夜もなかなか眠れないですし‥‥正体がわからないものはやっぱり怖いです。それにケンジがいつ出てくるかもわかりませんし」
金髪の青年、ケンイチ・ゴールドスミスは医務室でバネットと対面していた。闇に対する恐怖のためのカウンセリングを受けたいと申し出たのだ。
「闇について調査は続けているけど、誰かに危害を与えたということはないわ。それに今のところ個室に現れたという情報もない。怖ければ消灯時間をすぎても部屋を明るくしておくようにできるわよ」
バネットは穏やかだった。時折見せていた不気味さも、今はまったくない。
「はい、助かります‥‥それと、不躾な質問ですが、あなたとどこかでお会いしませんでしたか?」
ケンイチは気になっていた既視感を確かめたかった。誘い文句のようだが、本当にどこかで会ったような気がしていたのだ。
「それは多分‥‥」
バネットが銀縁の眼鏡を取って、ケンイチのほうに向き直った。
「あ、アリシアさん?」
思わず口に出してしまうほど、バネットはアリシアに似ていた。
「アリシアは双子の姉なの」
バネットは変わらず穏やかに笑った。
「そうそう、リクエストされてた本ね、届いてるわよ」
何もなかったかのようにバネットが机の抽斗を開けようとしたとき、轟音が医務室‥‥いや、施設全体に轟いた。
一時的に電源が落ち、辺りが真っ暗になる。
この施設を巨大な竜巻が直撃したのが原因だったが、今現在それをバネットが判断することはできなかった。
「何事?」
緊急時の発電機に切り替わり、電灯がついてバネットが辺りを見渡す。医務室に変わったことは‥‥一つだけあった。
「言っておくが、俺に腹芸が通用すると思うなよ」
ドスをきかせた声でバネットに詰め寄るのは、ケンイチ――ではなく、ケンジだ。
「ケンジね」
「教えろ、テメェらは何を企んでやがる。悪夢持ちを集めて戦争商売でも始めようってのか? こんな箱モノん中に閉じこめられる程度の能力じゃ人数集めたとしても使え――‥‥篩い分けか」
バネットの襟首を掴んでケンジが詰問する。
「ふふ‥‥暴れることだけが特技かと思ったら、賢いのね」
「読みが甘かったな。俺はテメェらの犬になるような真似はゴメンだぜ。なんなら今テメェを人質に取って――クソ、ケンイチ! 邪魔すんじゃねぇ!」
一つの体の内側でケンジとケンイチの意思が戦っている。バネットはその隙に襟元を掴む腕を振りほどいて距離をとった。
「おいおい、お前はなにやってるんだ? 女性を乱暴に扱うとはどういうことだよ」
ケンジの肩をグイッと掴んだのは、小黒(シャオヘイ)だった。
「何だテメェ」
「俺は小黒、世界中の女性のヒーローだ」
小黒は左目の眼帯を剥ぎ取るとケンジを見据えた。
「寝言は寝て言え!」
ケンジのESPで宙を舞った椅子が小黒を打ち据えようとする――が、小黒も同じように机を宙に浮かせてガードした。
「こんなとこでケンカしたって出口は見えないぜ」
小黒が気を引いている隙を見計らって、バネットはケンジに注射を打った。
その場に崩れるように倒れるケンジ。
「助かったけど、どうしてここに?」
「どうしてってそりゃ、カウンセリングを受けたいと思ってさ」
バネットと二人でケンイチの体をベッドに運びながら、小黒は左目でじっとバネットを見つめた。
(「能力頂き‥‥俺の予想では心を読む能力のはず‥‥だが‥‥?」)
――わぁ、この服かわいいなぁ。ここって通販とか出来るのかな? あ、無理だよね、私たちじゃ。それにそんなことしてる場合じゃないし
別人の思考が流れ込んでくる?!
でもそれはケンイチのものでもケンジのものでもない。この部屋にいる人間のものではない。
肝心のバネットの思考が読めない。なんだこりゃ?!
「はい、夜もなかなか眠れないですし‥‥正体がわからないものはやっぱり怖いです。それにケンジがいつ出てくるかもわかりませんし」
金髪の青年、ケンイチ・ゴールドスミスは医務室でバネットと対面していた。闇に対する恐怖のためのカウンセリングを受けたいと申し出たのだ。
「闇について調査は続けているけど、誰かに危害を与えたということはないわ。それに今のところ個室に現れたという情報もない。怖ければ消灯時間をすぎても部屋を明るくしておくようにできるわよ」
バネットは穏やかだった。時折見せていた不気味さも、今はまったくない。
「はい、助かります‥‥それと、不躾な質問ですが、あなたとどこかでお会いしませんでしたか?」
ケンイチは気になっていた既視感を確かめたかった。誘い文句のようだが、本当にどこかで会ったような気がしていたのだ。
「それは多分‥‥」
バネットが銀縁の眼鏡を取って、ケンイチのほうに向き直った。
「あ、アリシアさん?」
思わず口に出してしまうほど、バネットはアリシアに似ていた。
「アリシアは双子の姉なの」
バネットは変わらず穏やかに笑った。
「そうそう、リクエストされてた本ね、届いてるわよ」
何もなかったかのようにバネットが机の抽斗を開けようとしたとき、轟音が医務室‥‥いや、施設全体に轟いた。
一時的に電源が落ち、辺りが真っ暗になる。
この施設を巨大な竜巻が直撃したのが原因だったが、今現在それをバネットが判断することはできなかった。
「何事?」
緊急時の発電機に切り替わり、電灯がついてバネットが辺りを見渡す。医務室に変わったことは‥‥一つだけあった。
「言っておくが、俺に腹芸が通用すると思うなよ」
ドスをきかせた声でバネットに詰め寄るのは、ケンイチ――ではなく、ケンジだ。
「ケンジね」
「教えろ、テメェらは何を企んでやがる。悪夢持ちを集めて戦争商売でも始めようってのか? こんな箱モノん中に閉じこめられる程度の能力じゃ人数集めたとしても使え――‥‥篩い分けか」
バネットの襟首を掴んでケンジが詰問する。
「ふふ‥‥暴れることだけが特技かと思ったら、賢いのね」
「読みが甘かったな。俺はテメェらの犬になるような真似はゴメンだぜ。なんなら今テメェを人質に取って――クソ、ケンイチ! 邪魔すんじゃねぇ!」
一つの体の内側でケンジとケンイチの意思が戦っている。バネットはその隙に襟元を掴む腕を振りほどいて距離をとった。
「おいおい、お前はなにやってるんだ? 女性を乱暴に扱うとはどういうことだよ」
ケンジの肩をグイッと掴んだのは、小黒(シャオヘイ)だった。
「何だテメェ」
「俺は小黒、世界中の女性のヒーローだ」
小黒は左目の眼帯を剥ぎ取るとケンジを見据えた。
「寝言は寝て言え!」
ケンジのESPで宙を舞った椅子が小黒を打ち据えようとする――が、小黒も同じように机を宙に浮かせてガードした。
「こんなとこでケンカしたって出口は見えないぜ」
小黒が気を引いている隙を見計らって、バネットはケンジに注射を打った。
その場に崩れるように倒れるケンジ。
「助かったけど、どうしてここに?」
「どうしてってそりゃ、カウンセリングを受けたいと思ってさ」
バネットと二人でケンイチの体をベッドに運びながら、小黒は左目でじっとバネットを見つめた。
(「能力頂き‥‥俺の予想では心を読む能力のはず‥‥だが‥‥?」)
――わぁ、この服かわいいなぁ。ここって通販とか出来るのかな? あ、無理だよね、私たちじゃ。それにそんなことしてる場合じゃないし
別人の思考が流れ込んでくる?!
でもそれはケンイチのものでもケンジのものでもない。この部屋にいる人間のものではない。
肝心のバネットの思考が読めない。なんだこりゃ?!
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