「あんた、テストって知ってるか?」
「テスト? 何のことだ」
施設の職員である呉 杏柚は、ツバメと名乗る小柄な女性に唐突にそんなことを聞かれ、首をかしげた。
「いや、知らないならいい。書類を届けにきたんでここにサインをくれ」
杏柚は差し出された書類にサインをして返した。
「どうも」
言葉少なにツバメはその場を後にした。
「本当に何も知らないんだな、職員には知らせてないのか?」
杏柚のサインを見ながらツバメがつぶやいた。
「テスト‥‥そんなことが?」
ナイトメア『ダウンロード:ハッキング』により、瞬時のうちにツバメから『テスト』の内容を読み取った杏柚。発動がサインの直後であったため、ツバメにそれが知られることはなかった。
「収容者をわざと脱走させふるいにかけるということか、そんなことをして一体‥‥」
杏柚は思考をまとめるのにしばらく時間をかけた。
やがて、彼女は鍵つきの抽斗から小さな箱を取り出した。箱の中には不気味な赤いカプセルが数粒入っていた。
(「『アクセラ』‥‥裏の世界で新しいタイプのドラッグとして出回っている薬。一時的に五感を限りなく限界に近いところまで引き上げることができる薬‥‥もちろん少しでも量を誤れば死につながるが‥‥」)
ナイトメアは物質『アンノウン』が偶発的に生み出した副作用による産物。その力の仕組みや自由な力の開発にはこの施設でも研究されていたがほとんど進展がなかった。しかし杏柚が独自に調査を続けた結果、『アクセラ』と呼ばれる薬がナイトメアの力を一時的に増幅することがわかったのだ。それを上には提出せずに機をうかがっているときだった。
「これを使えば『影』を知覚することができるかもしれん、『影』がナイトメアであり元は人間であるならば」
わかる、すべてがわかる。今の私なら、『影』をも知覚できるはずだ。
杏柚はツカツカと洗面所までやってくると、闇を凝視した。
「意思を感知した。ダウンロードを開始する‥‥好き放題だな、まったく。やりすぎると見過ごすこともできん、肝に銘じておけ」
杏柚は影を捉えた。その肉体を捕らえることはできないが、動きを把握することはできそうだ。『アクセラ』に彼女の体が耐えられる限り。
闇は動じない。自分は闇なのだから即座に外へ逃げることもできる。しかしこのままでは面白くない‥‥
「テスト? 何のことだ」
施設の職員である呉 杏柚は、ツバメと名乗る小柄な女性に唐突にそんなことを聞かれ、首をかしげた。
「いや、知らないならいい。書類を届けにきたんでここにサインをくれ」
杏柚は差し出された書類にサインをして返した。
「どうも」
言葉少なにツバメはその場を後にした。
「本当に何も知らないんだな、職員には知らせてないのか?」
杏柚のサインを見ながらツバメがつぶやいた。
「テスト‥‥そんなことが?」
ナイトメア『ダウンロード:ハッキング』により、瞬時のうちにツバメから『テスト』の内容を読み取った杏柚。発動がサインの直後であったため、ツバメにそれが知られることはなかった。
「収容者をわざと脱走させふるいにかけるということか、そんなことをして一体‥‥」
杏柚は思考をまとめるのにしばらく時間をかけた。
やがて、彼女は鍵つきの抽斗から小さな箱を取り出した。箱の中には不気味な赤いカプセルが数粒入っていた。
(「『アクセラ』‥‥裏の世界で新しいタイプのドラッグとして出回っている薬。一時的に五感を限りなく限界に近いところまで引き上げることができる薬‥‥もちろん少しでも量を誤れば死につながるが‥‥」)
ナイトメアは物質『アンノウン』が偶発的に生み出した副作用による産物。その力の仕組みや自由な力の開発にはこの施設でも研究されていたがほとんど進展がなかった。しかし杏柚が独自に調査を続けた結果、『アクセラ』と呼ばれる薬がナイトメアの力を一時的に増幅することがわかったのだ。それを上には提出せずに機をうかがっているときだった。
「これを使えば『影』を知覚することができるかもしれん、『影』がナイトメアであり元は人間であるならば」
わかる、すべてがわかる。今の私なら、『影』をも知覚できるはずだ。
杏柚はツカツカと洗面所までやってくると、闇を凝視した。
「意思を感知した。ダウンロードを開始する‥‥好き放題だな、まったく。やりすぎると見過ごすこともできん、肝に銘じておけ」
杏柚は影を捉えた。その肉体を捕らえることはできないが、動きを把握することはできそうだ。『アクセラ』に彼女の体が耐えられる限り。
闇は動じない。自分は闇なのだから即座に外へ逃げることもできる。しかしこのままでは面白くない‥‥
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