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遠吠えは届かない
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 夜、テローネは『血母神の血肉(マグナ・マーテル)』により自身の血から生み出したトカゲを使って医務室を調べていた。バネットがここによくいるのなら、何かヒントが残っているかもしれない。
人気のない医務室に、誰かが入ってきた。ぱちんと電気をつけ、その人物は椅子に腰掛けた。自称アルバイト医師だ。
テローネのトカゲはするすると天井にのぼり、死角へと姿を隠した。
彼はポケットからPDAを取り出すと、インターネットに接続してなにやら見ているようだった。トカゲは画面を確認しようと天井からひょっこり顔を出す。

『Sランク賞金首――アルバート・ディラック』

トカゲ越しに画面を見て、テローネは珍しく心臓がドキドキと脈打つほど驚いてしまった。
「賞金首‥‥ディラック‥‥所長が賞金首ですの?」

その後もトカゲは監視カメラの位置を確認し、バネットの監視を続けた。
洗面所のエアダクトを通るトカゲは、その先に夜の闇を見た。鉄格子がはまっているが、これくらいならレナの力で蹴破れるしトランスポートの力を使えばストックして取り払うことができそうだ。出口は中庭のようだが、それから先はどこへ行くのかわからない。しかもエアダクトは人一人がやっと通れるほどの広さしかない。仮にここを出口に使うとしても、全員が一度にここから出るのは難しいだろう。
テローネは集めた情報を小さな紙にまとめてトカゲにくっつけ、換気口を通じてレナの元へと送った。
「明日にでもみんなで情報交換しよう」
レナの言葉に、テローネのマウスがイエスの方向にくるりと回った。


そのころ『闇』は、外部で黙々と自分の仕事を続けていた。仕事といってもそれはあくまで趣味のようなものだ。
脱出する収容者が見つけられれば使えるだろうと思われる武器や道具。それを外にちょこちょこと隠しておく。
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