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遠吠えは届かない
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 ヘルツがレナの元から去るのを見届けて、これといった特徴のない金髪の青年が近づいてきた。
 彼はヘルツのこともレナのことも知らない。ただ、ヘルツはどう見ても普通ではなかったので近寄りがたかっただけだ。
 ではなぜレナのテーブルまでやってくる機会を伺っていたのか?
 コルクボードのメモだ。
 面白い話が出来るかどうかはわからないが、とりあえず自分が住んでいたカンザス州の話でも聞かせてあげればどうだろうかと彼は思った。
 彼女が日々退屈にしているなら、行ったことのない場所の話をすれば少しは喜んでくれるかもしれない。
「あら、こんにちは。あなたもお話? せっかくだしそこに座って」
 レナは自分の正面の席を指差した。金髪青眼で中肉中背、『鈴木一郎さん』やら『ジョン・スミス』のような青年がおどおどと椅子に腰掛ける。
 そもそも目の前にいる少女はどう見ても自分より年下なはずだから、こんなにおどおどしたりかしこまったりする必要はないのだが、そうしてしまうのが青年の性格らしい。
「さっきの吸血鬼と違ってずいぶん普通の人ね」
「失礼でしょ」
「どっちに?」
「二人ともよ。ヘルツさんだって吸血鬼じゃないし、この……あなた、名前を教えてくれるかしら? 私はアリシア、こっちの失礼な子はレナよ」
 彼の名前を知らないことに気付いて、アリシアは自分から名乗った。
「ぇえと、はじめまして……ケンイチ・ゴールドスミスと申します……」
 ずいぶんと身を縮こまらせて青年が名乗った。あまりこういうことにはなれていないような印象を受ける。
「ケンイチね。コルクボードを見てきたのね?」
 レナが身を乗り出すとケンイチは思わず身をそらす。
「ええ、私が生まれたカンザス州の話でも聞いていただければと思いまして……」
 それからケンイチは西部開拓時代の趣が残った田舎の話を長々とした。
 なるほどねぇと時折相槌を打ちながら話を聞く少女二人。
「もしや、そのカンザス州に戻りたいとか?」
 レナの唐突な言葉にケンイチは顔を引きつらせた。
「わかるわ、ここは建物の中だし田舎暮らしにもちょっと憧れちゃうよね。ふるさとに帰りたいのは誰だって同じだし……ああ、私はどこがふるさとだかわからないんだけど。だからふるさとを覚えてるってだけでもうらやましいわ。で、そこに行ってみたいと。見た目は地味だけど考えることは大きいわね。男はこうでなくちゃ」
「え? え?」
「話がすれ違ってるみたいだけど?」
 アリシアが指摘すると、今度はレナが驚いた。
「あら? 本当に田舎の話だけ?」
 ケンイチ・ゴールドスミスは中身も平凡な青年だった。とりあえず、彼が『ケンイチ』である今は。
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