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遠吠えは届かない
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 翌日の朝食時間。
 謎の自称吸血鬼と平凡な青年の話をレナとアリシアは繰り返していた。
「ヘルツさんは普通じゃないみたいだしケンイチさんはなんだか理解できてないみたいだし、大丈夫かなぁ……」
「私たちみんな普通じゃないんだよ。ケンイチはどうして自分がここにいるのかすらわかってないみたいだったけど、ヘルツは面白い能力を持ってるし。でも確かに3人じゃ不安だなー」
「私をそんな目で見ないでよ、私はみんなと違ってアクティブな能力が無いし」
 アリシアが視線をそらしたその先に、ごくごく普通な感じの青年が立っていた。
「私は月見 鏡」
 青年は自分から名乗り、レナの隣の席についた。
「あ、おはようございます。私はアリシア、この子はレナ。もしかしてメモを見て?」
「ええ。私も少し退屈にしていたので、ちょうどいいかと。まあ、話といってもこの建物についての話になるのですが、男子房と女子房では何か違うところもあるかもしれないでしょう?」
 鏡は見た目はこれといった特徴は無いが、喋り方に知的なものを感じる青年だ。彼にとってもこの施設はさぞ退屈なものなのだろう。
「自分たちに与えられている情報があまりにも少ないので、自分で少し調べてみました。ナイトメアという能力を持った人間を収容する施設、興味深い仕掛けがあってもおかしくはありません」
「確かに。壁をすり抜けたり壊したりする能力を持っている人がいてもおかしくないものね。そういう人たちは特別なところにいるのかな?」
 レナやアリシアの力では自力で部屋から出ることは難しい。しかし、破壊的な力を持った人間が普通の部屋におさまっているというのも考えがたい。
「ええ、特別な部屋があるようです。ナイトメアとひとくくりに言っても能力の強さや種類は無限にあるわけですから」
「やっぱり能力を見極めて脱出できないようにされているのね……」
「?」
「脱出。私なら薄い壁くらいは蹴破れるけど、それは大分前に試したわ。足がしびれただけに終わっちゃったけどね」
「過激なことを考えているようですが、なかなか興味のある話ですね」
 おや、とアリシアは首をかしげた。ここにいる人間は『脱出』などという言葉に関わろうとはしない。過去に脱出を企てた人間がどうなったか、みんな噂で知っているからだ。
 しかし鏡はどうだろう、興味深そうに話を聞いている。
「ここにいても結局は『死に体』でしょう、必要があればまた声を掛けてください」
 いつの間にか空になった朝食のプレートを持って、鏡はその場を後にした。


「あの方とのお話は終わったんですの?」
 いつの間にかレナの向かいの席にちょこんと座っていた少女。
「あ、うん。あなたは?」
「私はテローネ」
 黒いワンピースに身を包んだ小さな少女は、傍らにいる黒猫に朝食を分け与えながらレナを興味ありげに見ている。
「私はあなたのお話を聞きにきたんですの」
「私の話? あなたが話を持ってきたんじゃなくて?」
 レナが不思議そうに問う。
「ここを出る為の情報を集めているんですの」
 えっ、とレナとアリシアは固まった。テローネの口から爆弾発言である。
「ここを出られたら、戦争が本当になくなったのかを探したいんですの」
 黒猫にパンをちぎってやりながら、テローネがさらりと言う。
「わわわー、テローネ、そんなこと堂々と話してたら看守に目をつけられるよ!!」
 慌ててレナがテローネの口をふさごうとしたが、テローネはちょいと指先でレナの手を制した。
「さっきの方ともそういう話をしていたのでしょう?」
「えっとー……それはそうなんだけどもっとビブラートに包んだ言い方で」
「オブラートのことですの?」
「うん、そうそう」
 自分よりずっと年下(少なくとも外見はそう見える)の少女に指摘されて頭をかくレナ。
 しかしこう大胆に切り出されるとは。
「そういうのは苦手ですの」
 そう言うとテローネはぽんと小さなネズミをテーブルの上に出し、レナに向かわせた。
「ナイトメア、『地母神の血肉(マグナ・マーテル)』。この子を使えば離れていても意思は伝えられますの。イエスの時は右に一回転。ノーなら左。どちらでもなければクルっと前転ですの」
 レナはネズミを慌ててワンピースのポケットに押し込んだ。
「み、見られなかったかな、今の」
「大丈夫だと思うけど」
 テローネがテーブルを後にしてからも、レナとアリシアはなかなか落ち着けなかった。
 実はあの目の無い黒猫も、テローネが能力で生み出したキメラである。テローネがまだ幼い少女なのでそのあたりは大目に見られているのかもしれない。この施設で個室で一人きりで過ごすのはあまりにも寂しすぎることは誰でも想像できる。
 もちろん、テローネは寂しさを紛らわすために黒猫を連れているのではないのだろうが。

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