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遠吠えは届かない
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 目が覚めると、知らない部屋にいた。高くて白い天井。自分の部屋によく似ているけれど、それよりずっと広いみたいだ。
「気がついた?」
 ベッドに横たわるケンイチの顔を覗き込む、金髪をボブカットにした女性。いや、眼鏡をかけているせいで大人びて見えるが、その奥の瞳はまだ幼さを残す少女のようだ。
「あの、私は一体……?」
 ケンイチは目をぱちくりとさせている。状況がうまく把握できていないようだ。
 ケンイチは過度のストレスでケンジという人格と入れ替わり、食堂で念動力を使って暴れだした。職員が彼を押さえつけ、鎮静剤を打たれたケンイチは医務室まで運ばれてきたのだ。
「大分暴れたみたい。少し見せてもらったけど、ストレスに弱いみたいね」
 女性の言葉を聞いてケンイチはうなだれた。そういえばそんなことが度々あったらしいが、そのときの記憶が自分にはまったく残っていない。『ケンジ』が出てこない限りナイトメアも使えない。それなのに自分はこんなところに閉じ込められて……理不尽な扱いにケンイチは深く落ち込んだ。
「私は、隔離房に入れられるんでしょうか。『ケンジ』はとても暴力的な性格なので、もしまた暴れるようなことがあれば皆さんを傷付けます……」
 弱弱しくケンイチが言った。
「大丈夫よ、隔離房に閉じ込めたりしたらますますあなたにストレスがかかるでしょ? そうなったらあなたは常にケンジに支配されてしまうかもしれない。それに、ストレス解消のために娯楽室が開放されるのよ。あなたも行ってみればいいわ」
「あの、あなたは?」
「私はバネット。ここで医者みたいなことをしているの。あなたたちのカウンセリングも担当しているからよろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
 ベッドに座っていつものように身を縮ませるケンイチに、バネットと名乗った女性は温かい紅茶を差し出した。
「闇が怖いのね?」
「はい、でもただの闇じゃないんです」
「知ってるわ。こっちでも対策をしているから、心配しないで」
 バネットのブロンドが窓ガラス越しの光を浴びてキラキラ光っている。ケンイチはなぜか彼女に既視感を覚えた。
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