――明染 希とトランスポートの作戦
各自の得た情報は各々『共有してもいい、するべきだ』と考えられたものが共有されている。
「セキュリティ室を占拠するよ」
希が皆を見据えて言った。
「私の作戦はこう」
――――
「最近になってまた脱出を企てる者が出始めたそうよ。セキュリティを解除して保守点検してちょうだい」
深夜、セキュリティ室に現れたバネットが唐突に警備責任者に言い放った。
「今ですか? 所長からは何も言われていませんが」
怪訝な顔をする男性警備員。
「今よ。悠長に予定を立てていたんじゃ収容者に『はいどうぞ今ですよ』と言っているようなものだわ」
いらだたしげに髪を掻き揚げるバネット。
警備員が二人、鍵を同時に回すと赤いランプが灯った。
「次に、今から言う番号のドアを開けてちょうだい」
「開けるんですか?」
「何度も言わせないで」
警備員は訝しげに、しかし彼女の言葉には逆らえないのか、言われた部屋のドアのロックを解除した。
――――
レナの枕元にいたトカゲがくるくると回転した。
扉に手をかけると、ロックが外れていた。
レナは靴を手に、足音を立てないように靴下のままくらい廊下を走っていった。
他の仲間も同じことをしている頃だろう。
――――
数分後、セキュリティ室に息を切らせたケンイチが走りこんできた。手にはグロック。
「バネットさん?」
「急いできてもらったところに悪いんだけど」
現状を把握できていない警備員を完全に無視して、バネット――鏡の能力で作られたコピー――が、トランスポートから受け取った紙切れをケンイチに渡した。
「恐ろしい『闇』からのメッセージです」
右手にグロックを持ったまま、ケンイチは震える指で手紙を開いた。
――『闇はただ傍観するのみ』
「闇はあなたを見ている‥‥」
バネットの姿をした鏡が畳み掛ける。
ケンイチの手から安全装置を外したグロックが滑り落ち、床に落ちて暴発した。思わず頭を抱え身を縮ませる警備員。
「‥‥ばかばかしい、誰の発案だこれ」
手紙をビリビリと破り捨てるケンイチから、普段の優しげで気の小さそうな雰囲気は消えていた。
「ケンイチに銃? 猫に小判だろうが!」
床に落ちたグロックを一瞥すると、ケンイチ――ケンジはESPで椅子や机を吹き飛ばし、それを警備員たちにぶつけた。
「で、何だこりゃ」
「こういう作戦です、ケンジさん」
バネットのコピーが無造作に床に転がったまま動かない警備員たちを見渡して、言った。
――――
計画では食料運搬口のロックがはずれ、そこから外に出られるはずだった。
皆自分の部屋から抜け出し、食料運搬口を目指す。監視カメラもすべて切られているはずなので当然警報は鳴らない。警備員はケンジに伸されていることだろう。
それぞれがテローネに渡されたトカゲの動きに従い、状況を判断する手はずだ。
「ロック解除‥‥されてるっ」
希が扉を開けると、そこから夜の冷たい風が吹き込んできた。外の世界だ。
「レナお願い!」
「オッケー!」
レナが希を背負い、空高く飛び上がった。
「空ぁー! でも着地点の計算とか無理! 希に任せた!」
レナの足が届く場所に、希があらかじめ用意しておいた布を空中に固定する。それを足がかりに、レナは丘の下へと空中散歩で下りて行った。
丘の下まで飛んで、ある程度施設から離れたところまでくると、レナは地面に下りて希を降ろした。
「希はここにいて。私は戻ってみんなを連れてくればいいんだよね」
レナは、空中に置かれたままの布を踏み台にして飛びながら施設へと戻っていった。自力で外に出た者も、安全な場所まで運ばなければならない。特に見つかる可能性の高い制圧組はレナとトランスポートがつれて逃げる必要があった。
バネットをコピーして怪しまれない姿の鏡と力のあるケンジがセキュリティ室を占拠、その隙にロックを解除して他の者が脱出するというのが希の計画だった。
ケンジの登場は、ケンイチが恐れる『闇』からのメッセージを利用したトランスポートの案だ。
――――
「アリシア? どこなの?」
施設に戻ったレナは、アリシアを探していた。どこにもいない。
――――
「バネット! バネットはどこだ!」
同じ頃、所長室でセキュリティ室の異常に気付き声を荒げるディラックがいた。
「はい、お父様」
「セキュリティに異常だ! 連中の仕業か?」
「はい、はじまりました。テストの最終段階です」
落ち着きなくまくし立てるディラックに対して、バネットは冷静に答えを返した。
――――
「君は行かなくていいの?」
医務室の薄明かりの中、ウラジーミル・リヤトニコフ医師がアリシアに問いかけた。
「私が行くと足手まといになるもの」
アリシアはガラス越しに外を眺めながら、静かにつぶやいた。
各自の得た情報は各々『共有してもいい、するべきだ』と考えられたものが共有されている。
「セキュリティ室を占拠するよ」
希が皆を見据えて言った。
「私の作戦はこう」
――――
「最近になってまた脱出を企てる者が出始めたそうよ。セキュリティを解除して保守点検してちょうだい」
深夜、セキュリティ室に現れたバネットが唐突に警備責任者に言い放った。
「今ですか? 所長からは何も言われていませんが」
怪訝な顔をする男性警備員。
「今よ。悠長に予定を立てていたんじゃ収容者に『はいどうぞ今ですよ』と言っているようなものだわ」
いらだたしげに髪を掻き揚げるバネット。
警備員が二人、鍵を同時に回すと赤いランプが灯った。
「次に、今から言う番号のドアを開けてちょうだい」
「開けるんですか?」
「何度も言わせないで」
警備員は訝しげに、しかし彼女の言葉には逆らえないのか、言われた部屋のドアのロックを解除した。
――――
レナの枕元にいたトカゲがくるくると回転した。
扉に手をかけると、ロックが外れていた。
レナは靴を手に、足音を立てないように靴下のままくらい廊下を走っていった。
他の仲間も同じことをしている頃だろう。
――――
数分後、セキュリティ室に息を切らせたケンイチが走りこんできた。手にはグロック。
「バネットさん?」
「急いできてもらったところに悪いんだけど」
現状を把握できていない警備員を完全に無視して、バネット――鏡の能力で作られたコピー――が、トランスポートから受け取った紙切れをケンイチに渡した。
「恐ろしい『闇』からのメッセージです」
右手にグロックを持ったまま、ケンイチは震える指で手紙を開いた。
――『闇はただ傍観するのみ』
「闇はあなたを見ている‥‥」
バネットの姿をした鏡が畳み掛ける。
ケンイチの手から安全装置を外したグロックが滑り落ち、床に落ちて暴発した。思わず頭を抱え身を縮ませる警備員。
「‥‥ばかばかしい、誰の発案だこれ」
手紙をビリビリと破り捨てるケンイチから、普段の優しげで気の小さそうな雰囲気は消えていた。
「ケンイチに銃? 猫に小判だろうが!」
床に落ちたグロックを一瞥すると、ケンイチ――ケンジはESPで椅子や机を吹き飛ばし、それを警備員たちにぶつけた。
「で、何だこりゃ」
「こういう作戦です、ケンジさん」
バネットのコピーが無造作に床に転がったまま動かない警備員たちを見渡して、言った。
――――
計画では食料運搬口のロックがはずれ、そこから外に出られるはずだった。
皆自分の部屋から抜け出し、食料運搬口を目指す。監視カメラもすべて切られているはずなので当然警報は鳴らない。警備員はケンジに伸されていることだろう。
それぞれがテローネに渡されたトカゲの動きに従い、状況を判断する手はずだ。
「ロック解除‥‥されてるっ」
希が扉を開けると、そこから夜の冷たい風が吹き込んできた。外の世界だ。
「レナお願い!」
「オッケー!」
レナが希を背負い、空高く飛び上がった。
「空ぁー! でも着地点の計算とか無理! 希に任せた!」
レナの足が届く場所に、希があらかじめ用意しておいた布を空中に固定する。それを足がかりに、レナは丘の下へと空中散歩で下りて行った。
丘の下まで飛んで、ある程度施設から離れたところまでくると、レナは地面に下りて希を降ろした。
「希はここにいて。私は戻ってみんなを連れてくればいいんだよね」
レナは、空中に置かれたままの布を踏み台にして飛びながら施設へと戻っていった。自力で外に出た者も、安全な場所まで運ばなければならない。特に見つかる可能性の高い制圧組はレナとトランスポートがつれて逃げる必要があった。
バネットをコピーして怪しまれない姿の鏡と力のあるケンジがセキュリティ室を占拠、その隙にロックを解除して他の者が脱出するというのが希の計画だった。
ケンジの登場は、ケンイチが恐れる『闇』からのメッセージを利用したトランスポートの案だ。
――――
「アリシア? どこなの?」
施設に戻ったレナは、アリシアを探していた。どこにもいない。
――――
「バネット! バネットはどこだ!」
同じ頃、所長室でセキュリティ室の異常に気付き声を荒げるディラックがいた。
「はい、お父様」
「セキュリティに異常だ! 連中の仕業か?」
「はい、はじまりました。テストの最終段階です」
落ち着きなくまくし立てるディラックに対して、バネットは冷静に答えを返した。
――――
「君は行かなくていいの?」
医務室の薄明かりの中、ウラジーミル・リヤトニコフ医師がアリシアに問いかけた。
「私が行くと足手まといになるもの」
アリシアはガラス越しに外を眺めながら、静かにつぶやいた。
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