――テローネのお茶会
「お茶会?」
「そうですの。お菓子とお茶があれば素敵だと思うんですの」
テローネが、廊下で呉 杏柚を見つけて話しかけていた。杏柚は相変わらずクールなそぶりを見せていたが、テローネにはどことなく疲れて見えた。
実際杏柚はかなり疲れていた。闇との戦いでかなり消耗していた。
――いいかい、これを使うのは君の自由だけど、使えるのは後一度だけだ。二度目はない。
『どうして?』
――次の一回で、運がよければ、君はまた元の君に戻ってこれる。つまり今の君だ。でも、運が悪ければ君は死ぬ。もしくは再起不可能になる。だから二度目はない。死んだらどんな薬も意味がない。
『闇は、どうなった?』
――施設の外に男がいたそうだ。逃げられてしまったけど、彼も相当疲弊しているはずだ。詳しいことは僕は知らない。
『結局私にどうしろと?』
――好きにすればってこと。乱暴な言い方になるけど、君が死のうが闇が死のうが僕には関係ないことだからね。
医務室で目を覚ました杏柚が、リヤトニコフとかいう医者と交わした言葉だった。
「杏柚?」
テローネの声で我に返る杏柚。そういえばお茶会をしたいという話だった。
「お茶とお菓子だな、それくらいならいいだろう」
テローネたちがなにやら企てているのはもちろん知っていたが、それを止めるのは彼女の仕事ではなかった。
「よろしかったら一緒に参加しますの」
「いや、私はいい。休憩時間になったら娯楽室にお茶とお菓子を持って行くから待っていてくれ」
杏柚はテローネの誘いを簡単な言葉で断った。
娯楽室開放の時間、いつもどおりのメンバーでいつもどおりそれとなくテーブルを囲む。いつもと少し違うのは、テーブルの上に人数分のティーカップと焼き菓子があること。
杏柚が気を利かせてくれたのか、他の収容者の分も足りないことがないようにカップとお茶が用意されていた。ただし杏柚はやはりこの場には来ていなかった。
「杏柚を呼んだんですけど、来なかったですの。もし来てくれれば他の職員の目をごまかせますし、うまくいけば協力してもらえるかと思ったんですの」
「えっ、協力? だってあの人はここの職員でしょ?」
テローネの言葉にレナが驚いて、カップを取り落としそうになった。
「でもあの方、気付いているのに何も言いませんの。私の猫も、レナにあげたネズミも」
だから、自分たちに対して好戦的ではないとテローネは考えていた。
「そういえば、そうだよね‥‥あの人も能力者だし」
レナがみんなのカップに紅茶を注ぎながら言った。そんなレナを見ながら、テローネが微笑む。
「レナって、お姉さんって感じがして素敵ですの」
「えぇ?」
今度はポットを落としそうになるレナ。
「レナは、世話焼きなだけだよー。案外ドジだし、頭もあんまり‥‥」
すかさずアリシアが残念な顔をしながら横槍を入れる。
「レナとアリシアは本当に仲良しですの。私も仲良くなりたいですの。アリシアはどうやってレナと仲良くなったんですの?」
テローネが興味ありげにアリシアを見る。
「えーと、床に排気口か排水口みたいなのがあるでしょ? そこからレナの声が聞こえてきたの。正確には愚痴が」
アリシアが答えると、レナが照れくさそうに頭をかいた。
「大様の耳はロバの耳ー! みたいな感じで、排水口に向かって文句言ってみたのよ。そしたらそこが偶然アリシアの部屋とつながってて、よーく耳を澄ますとそこから会話できるようになったの。刑務所から脱走するドラマでも似たようなシーンがあったんだけど、本当に話ができるなんて思ってなかったからびっくりよ」
身振り手振りを交えてレナがまくし立てた。
二人の部屋が排水口伝いにつながっていて、話が出来たというのは本当に『偶然』だろうか。テローネはそこを疑っていた。が、レナの話に相槌を打つアリシアからは真意が測れなかった。
「お茶会?」
「そうですの。お菓子とお茶があれば素敵だと思うんですの」
テローネが、廊下で呉 杏柚を見つけて話しかけていた。杏柚は相変わらずクールなそぶりを見せていたが、テローネにはどことなく疲れて見えた。
実際杏柚はかなり疲れていた。闇との戦いでかなり消耗していた。
――いいかい、これを使うのは君の自由だけど、使えるのは後一度だけだ。二度目はない。
『どうして?』
――次の一回で、運がよければ、君はまた元の君に戻ってこれる。つまり今の君だ。でも、運が悪ければ君は死ぬ。もしくは再起不可能になる。だから二度目はない。死んだらどんな薬も意味がない。
『闇は、どうなった?』
――施設の外に男がいたそうだ。逃げられてしまったけど、彼も相当疲弊しているはずだ。詳しいことは僕は知らない。
『結局私にどうしろと?』
――好きにすればってこと。乱暴な言い方になるけど、君が死のうが闇が死のうが僕には関係ないことだからね。
医務室で目を覚ました杏柚が、リヤトニコフとかいう医者と交わした言葉だった。
「杏柚?」
テローネの声で我に返る杏柚。そういえばお茶会をしたいという話だった。
「お茶とお菓子だな、それくらいならいいだろう」
テローネたちがなにやら企てているのはもちろん知っていたが、それを止めるのは彼女の仕事ではなかった。
「よろしかったら一緒に参加しますの」
「いや、私はいい。休憩時間になったら娯楽室にお茶とお菓子を持って行くから待っていてくれ」
杏柚はテローネの誘いを簡単な言葉で断った。
娯楽室開放の時間、いつもどおりのメンバーでいつもどおりそれとなくテーブルを囲む。いつもと少し違うのは、テーブルの上に人数分のティーカップと焼き菓子があること。
杏柚が気を利かせてくれたのか、他の収容者の分も足りないことがないようにカップとお茶が用意されていた。ただし杏柚はやはりこの場には来ていなかった。
「杏柚を呼んだんですけど、来なかったですの。もし来てくれれば他の職員の目をごまかせますし、うまくいけば協力してもらえるかと思ったんですの」
「えっ、協力? だってあの人はここの職員でしょ?」
テローネの言葉にレナが驚いて、カップを取り落としそうになった。
「でもあの方、気付いているのに何も言いませんの。私の猫も、レナにあげたネズミも」
だから、自分たちに対して好戦的ではないとテローネは考えていた。
「そういえば、そうだよね‥‥あの人も能力者だし」
レナがみんなのカップに紅茶を注ぎながら言った。そんなレナを見ながら、テローネが微笑む。
「レナって、お姉さんって感じがして素敵ですの」
「えぇ?」
今度はポットを落としそうになるレナ。
「レナは、世話焼きなだけだよー。案外ドジだし、頭もあんまり‥‥」
すかさずアリシアが残念な顔をしながら横槍を入れる。
「レナとアリシアは本当に仲良しですの。私も仲良くなりたいですの。アリシアはどうやってレナと仲良くなったんですの?」
テローネが興味ありげにアリシアを見る。
「えーと、床に排気口か排水口みたいなのがあるでしょ? そこからレナの声が聞こえてきたの。正確には愚痴が」
アリシアが答えると、レナが照れくさそうに頭をかいた。
「大様の耳はロバの耳ー! みたいな感じで、排水口に向かって文句言ってみたのよ。そしたらそこが偶然アリシアの部屋とつながってて、よーく耳を澄ますとそこから会話できるようになったの。刑務所から脱走するドラマでも似たようなシーンがあったんだけど、本当に話ができるなんて思ってなかったからびっくりよ」
身振り手振りを交えてレナがまくし立てた。
二人の部屋が排水口伝いにつながっていて、話が出来たというのは本当に『偶然』だろうか。テローネはそこを疑っていた。が、レナの話に相槌を打つアリシアからは真意が測れなかった。
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