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遠吠えは届かない
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 ――ケンイチ・ゴールドスミスの秘密

ケンイチ・ゴールドスミスは、自室で一人、ベッドの上に寝転がっていた。
自分を強く持とうとしていたのに、やっぱりケンジが出てきてしまった。やるせない気持ちでいっぱいだった。
マットレスの埃っぽいにおいが鼻につく。
そういえば、布団やシーツは洗濯しているけれど、マットレスはあまり干していない。ここではきれいなマットレスで眠ることもできなかったのか‥‥
ケンイチはベッドから勢いをつけて起き上がった。くよくよしていたって仕方ないじゃないか。
彼らしくきれいにたたまれた掛け布団とシーツをベッドから下ろし、マットレスを持ち上げた。部屋の中でも、壁に立てかけておけば少しは違うだろう。そんなわけで彼は行動したのだが‥‥
「!」
マットレスの下、金網とばねで作られたベッドの一部に小さな籠のような箱がぴったりとくっついている。だれかがその箱を入れるために改造したとしか思えなかった。
なんとなく嫌な予感はしていたが、彼は思い切ってその箱を開けてみた。
ケンイチは息を飲んだ。無骨な鋼の塊が、いくつかに分解されて新聞紙にくるまれていた。かつて射撃の訓練をしていた記憶のあるケンイチには、それが拳銃だとすぐにわかった。
何も見なかったようなそぶりで、しかし内心めまいにも似た緊張に襲われながら、ケンイチはそっと近くにある本に手を伸ばした。
ハードカバーの『さらば愛しき女よ』――バネットが彼のために持ってきてくれた本だった――それの下に新聞紙ごとバラけた銃を隠し持ち、部屋の隅で靴の手入れでもするかのように静かに組み立てた。
彼も施設に収容される前はこのような銃を扱っていた。グロック35、小型の競技用モデルだった。そこに予備の弾倉が二つ。上出来だ。いや、できすぎだ。どうしてこんなものが自分の部屋に? 誰かに、仕組まれているのだろうか‥‥そうだとしても武器は捨てがたい。みんなの足を引っ張りたくない。これがあれば、力になれる‥‥かもしれない。
これは、自分だけの秘密にしておこう。もし見つかっても、自分が責められるだけで済むならそのほうがいい。
ケンイチは読み終わったばかりの本をくり抜き、そこに拳銃を隠した。
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