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遠吠えは届かない
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 ――闇の場合

闇はそこにはいなかった。
すでに噂が大きくなりすぎてしまった洗面所。『影』、『闇』、恐怖を感じさせる呼び名が付いた。
都市伝説が生まれやすい場所でもあったが、闇はそこを嫌った。
闇には意思があった。意思がある時点で、それは闇ではなかったのかもしれない。
彼、仮に闇を『彼』と呼ぶことにする。彼はなぜか執拗なまでに自然災害を探し、それを収容所にぶつけることを画策した。
しかし収容所は多くの能力者を閉じ込めている施設である。施設にいるのはおとなしい能力者ばかりではない。彼らが出られないのには理由がある。その一つが、建物自体の強度である。
次に彼はディラックという男について調べた。
しかしディラックの情報は、情報の海に浮かんでは来なかった。出てくるのはいらない経歴ばかり。普通の大学を出て、『アンノウン』と『ナイトメア』の関係を研究を始める。そして独立し、自分の研究施設、通称『ディラックの箱』を作る。以後の情報は不明。ディラックは外部の人間との接触を嫌っているのか、研究施設からほとんど出ることはなかったようだ。『箱』もありふれた研究施設の一つとされている。外部の人間は、ここに能力者たちが監禁されているなど知る由もなかった。

もちろん、ディラックが賞金首であることを闇は知ることができなかった。彼は賞金稼ぎではない。そして、厳重に管理された賞金首の情報にアクセスすることは敵わなかった。名の知れるハッカーたちですら、賞金首、それもSランクのものにアクセスすることは難しい。賞金とその首を管理する側もプロである。


「嵐の夜は好きではない、うるさくてかなわんからな」
闇の精神に女性の声が割り込んできた。
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