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遠吠えは届かない
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 ――アルバイト医師の独り言

やぁ、そこで見ている誰かさん。
誰が誰かはわからないけど、ここ、警備厳重だから常に見られている感覚があるんだ。
昔っから勘は鋭いほうでね‥‥そんな話どうでもいいか。
知っているかもしれないけれど、僕の名前は『ウラジーミル・リヤトニコフ』。ロシア出身の医者だよ。
今は医者っていうよりもカウボーイ‥‥つまり賞金稼ぎのほうが本業かな。
賞金稼ぎを知らない? 未発達な政府があってね、そこが仕切ってるんだ。詳しいことは僕もよく知らない。企業やマフィアみたいな団体から個人まで、色々な人が賞金を上乗せして賞金稼ぎに犯罪者(と限らない人もいるけどね)を捕まえてもらうシステムさ。
僕ら能力者――研究者は僕らのことを『アノニマ』っていうんだけど、どうもその呼び名は好きじゃなくてね。とにかく、能力者にとっては『賞金稼ぎ』はいい仕事の一つなんだ。
かくいう僕も能力者であり、昔は賞金首だった。その昔は軍医。若いのに修羅場くぐってるって? この時代に生きた人間はみんなそうさ。

なぜ僕がこの施設に医者としてもぐりこんだか。それは当然賞金のためだよ。知っているかも知れないけれど、ここの所長、アルバート・ディラックには大金が掛けられている。それは地下政府のものか、はたまた技術を欲するどこかの組織が掛けたものか、残念だけど僕は知らない。Sランクってことで情報を見れるのは一部の凄腕カウボーイだけなんだ。そういう賞金稼ぎにだけこっそり情報が与えられるわけ。ちなみに賞金稼ぎで言う『Sランク』は僕じゃなくて僕の友人だよ。
ついでに、これも知っているかもしれないけれど、賞金首は生け捕りにしないといけない。殺して首を持って行ってもダメってことさ。
この施設ではときどき『脱走』っていうのがあるらしくてね、僕はそこに便乗してディラックを捕まえるつもりだよ。

あ、トカゲ‥‥逃げられた。
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『なるべく大きめの、厚いコートをお願いしたい また何日かあと、受け取りに伺う  ヘルツ』
このメモ書きと大量の布から、希は大きなコートを縫い上げた。
ヘルツはコウモリの姿で通気口からレナの部屋に向かった。
「おっ、ヘルツ」
眠っていたレナはヘルツに突かれて飛び起きた。黒い、大きなコートをまとっているヘルツが少し不気味にレナの枕元にたたずんでいた。
「今後の方針を聞きたいのだが」
「えと、希が地図をもってるの。外部の人が協力してくれてるみたいね。完全に信じられるかどうかはわからないけど、本物ならそれに頼るしかないわ。テローネのトカゲが見て回って作った地図とも矛盾するところはないみたい。でも細かいところはまだわかってないわ。これもテローネがトカゲで監視カメラやセキュリティの場所を教えてくれるはず。あと、娯楽室に近い洗面所の天井にあるエアダクトが中庭につながってるらしいの。あと、所長が賞金首だって話よ。明日娯楽室でみんなに伝える予定」
目をこすりながら、暗闇の中レナが早口に説明した。
「所長が賞金首?」
「うん、それを医務室の変な医者が見てたって」
「もう少し内部を調査するべきか」
「うーん、そのエアダクトから本当に外に出られるのかどうか調べたいところもあるのよね‥‥コウモリになればできるかな? それから、私たちが脱出できるかどうかが『テスト』されているっていう話もあるの。そんなことをしてどうするのかはわからないけど」
テスト、賞金首‥‥ヘルツも唐突な話に驚いていた。
しかしここで長居をすることも危険だ。
「最後に頼みがあるのだが、コウモリになることでかなり体力を消耗している。血を分けてもらえないか?」
ヘルツの申し出にレナはぎょっとして、少し考え込んで、いいよ、と腕を差し出した。


バネット、テスト、賞金首の所長。この話を聞いて、彼らはどう動くのか。
闇、外部の協力者、変わり者の医者、杏柚の能力を格段に引き上げる『アクセラ』。テストと称して入所者たちを手中に収めているかに見えるバネットとディラックの思惑を打ち壊すファクターは十分にある。
 夜、テローネは『血母神の血肉(マグナ・マーテル)』により自身の血から生み出したトカゲを使って医務室を調べていた。バネットがここによくいるのなら、何かヒントが残っているかもしれない。
人気のない医務室に、誰かが入ってきた。ぱちんと電気をつけ、その人物は椅子に腰掛けた。自称アルバイト医師だ。
テローネのトカゲはするすると天井にのぼり、死角へと姿を隠した。
彼はポケットからPDAを取り出すと、インターネットに接続してなにやら見ているようだった。トカゲは画面を確認しようと天井からひょっこり顔を出す。

『Sランク賞金首――アルバート・ディラック』

トカゲ越しに画面を見て、テローネは珍しく心臓がドキドキと脈打つほど驚いてしまった。
「賞金首‥‥ディラック‥‥所長が賞金首ですの?」

その後もトカゲは監視カメラの位置を確認し、バネットの監視を続けた。
洗面所のエアダクトを通るトカゲは、その先に夜の闇を見た。鉄格子がはまっているが、これくらいならレナの力で蹴破れるしトランスポートの力を使えばストックして取り払うことができそうだ。出口は中庭のようだが、それから先はどこへ行くのかわからない。しかもエアダクトは人一人がやっと通れるほどの広さしかない。仮にここを出口に使うとしても、全員が一度にここから出るのは難しいだろう。
テローネは集めた情報を小さな紙にまとめてトカゲにくっつけ、換気口を通じてレナの元へと送った。
「明日にでもみんなで情報交換しよう」
レナの言葉に、テローネのマウスがイエスの方向にくるりと回った。


そのころ『闇』は、外部で黙々と自分の仕事を続けていた。仕事といってもそれはあくまで趣味のようなものだ。
脱出する収容者が見つけられれば使えるだろうと思われる武器や道具。それを外にちょこちょこと隠しておく。
「空間には特に異常なし」
金髪をボブカットにした小柄な女性が、何もない空間を見つめてつぶやいた。
それから、慎重にコンピューターのキーボードを叩いてみる。
パスワードが必要‥‥
パスワードはわからない。
抽斗を開けてみる。書類がきれいに整理されている。
浅い抽斗の一番上に入っている、新しい日付の書類のコピー。
収容者のテストについて‥‥外部の協力者について‥‥署名、『バネット・ディラック』
「テスト?」
女性は眉を吊り上げた。彼女はバネットの姿をした、鏡の作り出したコピー。


「テストだ‥‥」
娯楽室にいる鏡の本体がつぶやいた。
「テストって?」
レナが怪訝な顔をする。
「この脱出計画、これこそ連中の目的だ。生きる意志の強いもの、優秀なもの、強いものを集めたいんだろう。それをしてどうするのかまではわからないが」
苦虫を噛み潰したような顔の鏡。
「外の世界には、ナイトメアの力で小さな国のようなものを作ったりしている人もいるらしいよ。そういうことがしたいのかも。でもそれなら私たちはなんなの? テストの後に洗脳でもされちゃっていいように使われちゃうわけ? そんなのお断りよ。ここを出て、ついでにこの施設の悪い奴がいたらとっちめてやって、悪い奴ってどいつかわかんないけど‥‥とにかく、なんでもこの施設の思い通りにはいかないって教えてやるのよ!」
「声が大きいぞ」
鏡にたしなめられてレナはぽんと椅子に座りなおした。
「そういえば鏡の能力について詳しく聞いてないけど」
「そうだな、まあ、そのうちに」
なんとなくお茶を濁す言い方をする鏡。
「それで、やっぱり闇が怖いの?」
「はい、夜もなかなか眠れないですし‥‥正体がわからないものはやっぱり怖いです。それにケンジがいつ出てくるかもわかりませんし」
金髪の青年、ケンイチ・ゴールドスミスは医務室でバネットと対面していた。闇に対する恐怖のためのカウンセリングを受けたいと申し出たのだ。
「闇について調査は続けているけど、誰かに危害を与えたということはないわ。それに今のところ個室に現れたという情報もない。怖ければ消灯時間をすぎても部屋を明るくしておくようにできるわよ」
バネットは穏やかだった。時折見せていた不気味さも、今はまったくない。
「はい、助かります‥‥それと、不躾な質問ですが、あなたとどこかでお会いしませんでしたか?」
ケンイチは気になっていた既視感を確かめたかった。誘い文句のようだが、本当にどこかで会ったような気がしていたのだ。
「それは多分‥‥」
バネットが銀縁の眼鏡を取って、ケンイチのほうに向き直った。
「あ、アリシアさん?」
思わず口に出してしまうほど、バネットはアリシアに似ていた。
「アリシアは双子の姉なの」
バネットは変わらず穏やかに笑った。
「そうそう、リクエストされてた本ね、届いてるわよ」
何もなかったかのようにバネットが机の抽斗を開けようとしたとき、轟音が医務室‥‥いや、施設全体に轟いた。
一時的に電源が落ち、辺りが真っ暗になる。
この施設を巨大な竜巻が直撃したのが原因だったが、今現在それをバネットが判断することはできなかった。
「何事?」
緊急時の発電機に切り替わり、電灯がついてバネットが辺りを見渡す。医務室に変わったことは‥‥一つだけあった。
「言っておくが、俺に腹芸が通用すると思うなよ」
ドスをきかせた声でバネットに詰め寄るのは、ケンイチ――ではなく、ケンジだ。
「ケンジね」
「教えろ、テメェらは何を企んでやがる。悪夢持ちを集めて戦争商売でも始めようってのか? こんな箱モノん中に閉じこめられる程度の能力じゃ人数集めたとしても使え――‥‥篩い分けか」
バネットの襟首を掴んでケンジが詰問する。
「ふふ‥‥暴れることだけが特技かと思ったら、賢いのね」
「読みが甘かったな。俺はテメェらの犬になるような真似はゴメンだぜ。なんなら今テメェを人質に取って――クソ、ケンイチ! 邪魔すんじゃねぇ!」
一つの体の内側でケンジとケンイチの意思が戦っている。バネットはその隙に襟元を掴む腕を振りほどいて距離をとった。
「おいおい、お前はなにやってるんだ? 女性を乱暴に扱うとはどういうことだよ」
ケンジの肩をグイッと掴んだのは、小黒(シャオヘイ)だった。
「何だテメェ」
「俺は小黒、世界中の女性のヒーローだ」
小黒は左目の眼帯を剥ぎ取るとケンジを見据えた。
「寝言は寝て言え!」
ケンジのESPで宙を舞った椅子が小黒を打ち据えようとする――が、小黒も同じように机を宙に浮かせてガードした。
「こんなとこでケンカしたって出口は見えないぜ」
小黒が気を引いている隙を見計らって、バネットはケンジに注射を打った。
その場に崩れるように倒れるケンジ。
「助かったけど、どうしてここに?」
「どうしてってそりゃ、カウンセリングを受けたいと思ってさ」
バネットと二人でケンイチの体をベッドに運びながら、小黒は左目でじっとバネットを見つめた。
(「能力頂き‥‥俺の予想では心を読む能力のはず‥‥だが‥‥?」)

――わぁ、この服かわいいなぁ。ここって通販とか出来るのかな? あ、無理だよね、私たちじゃ。それにそんなことしてる場合じゃないし

別人の思考が流れ込んでくる?!
でもそれはケンイチのものでもケンジのものでもない。この部屋にいる人間のものではない。
肝心のバネットの思考が読めない。なんだこりゃ?!
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